黒子の怪異調査記録 case.2-1/茂みの怪異
「聞いてくれよ・・・もうホント怖くてさ」
定期的に開催される怪談話好きによるオフ会。
俺はこの手の話を聞くのは好きではあるが、霊感とかは無いため結構懐疑的ではある。
とはいうが、やはり好きなものは好きであり、何処かで幽霊を見てみたい・・・と、かなり矛盾している。
「で、何だっけ・・・見られてる?・・・だっけ?」
「そうなんだよ!なんかさ・・・周りに誰もいないのに視線を感じるっての?
そういう感覚ない?」
俺は今までそんな経験をしたことはないが・・・
このSって人、霊感があるんだろうか?
「Sさんは、その・・・霊感とかがあったりするんですか?」
「いや・・・自分ではないと思うんだけどさ・・・
ただね、こないだ見ちゃったんだよ・・・」
Sさんの話によれば、始まりは結構最近のようだ。
ある日、0時近くの夜道を帰宅途中、いつもの道を歩いていると、前方の右側の植え込みに、何か光るものを見たそうだ。
「ん・・・?猫かな」
Sさんが見た光るもの・・・それはどうやら二つ並んで光っていたようだ。
大きさ、光の間隔からも、それが何かの動物の目の光だとは容易に察する事が出来たという。
気になったSさんはそのまま歩き続け、先ほど目らしき光を確認した植え込みまでやってきた。
「猫ちゃんいるのかなー?」
「にゃー」
身を屈め、植え込みを覗き込むと、予想通りそこには野良猫がいた。
「ごめんよ。何もあげるものがないんだ」
そう言って立ち去ろうとした時だった、猫が勢いよく植え込みから飛び出してきて、
びっくりしたSさんは思わず尻餅をついてしまった。
「いてて・・・驚いたなぁもう・・・」
何気なく、今まで猫がいた植え込みが視線に入ってくる。
すると、そこには、尻持ちをついたSさんを見下ろす、謎の目が浮かんでいたそうだ。
「うわっ!!」
思わず声を上げたSさんは、
反射的に目を覆うように腕を目の前に構えた。
そして、ゆっくりと腕を下げつつ・・・細目で、もう一度植え込みを確認した。
(何もない・・・気のせいだったのか・・・?)
あれは何だったのか。
明らかに猫の目ではなかった。
恐らくあれは人の目・・・
このゾッとする出来事を境に、Sさんは何者かの視線を感じるようになってしまったようだ。
「それSさん、完全に憑かれちゃったんじゃないです!?」
「えー!?やっぱりそうなのかな・・・嫌だよ!」
スゲェ盛り上がってるな。
恐怖体験から来るSさんの思い込みなのか・・・はたまた本当に何者かにとり憑かれ、見られ続けているのか。
今日集まったメンバーで自称霊感持ちの人はいないようだから、
可哀想だがSさんの身に起きてることはなんら解決のしようがないな。
「Sさん、あまり気にしすぎるのはよくないですよ。
大丈夫。何も憑いてなんかないですよ」
黒子のヤツ、霊感もないのにまた適当なことを。
でも、まぁ・・・安心させるための方便か。
黒子なりの優しさってヤツかな。
「・・・そうだね・・・考えすぎはよくないよね」
・・・・・
・・・
「それじゃあまた」
終電間際・・・
今日のオフ会はこれにて解散。
それぞれ帰路につく。
「あのSさん、さっきの話ですが・・・
その”目”を見た植え込み、連れて行ってもらえませんか?」
「え・・・!?」
黒子のヤツ、一体何を考えてるんだ?
「ご、ごめん・・・実はアレを見てから怖くて近づいてないんだ。
行くのもちょっと・・・悪いね」
「じゃあ、場所だけ詳しく教えてください」
「まぁ・・・場所を教えるだけなら・・・」
また興味本位で首を突っ込むのか。
もういい時間だろ・・・まぁ流石にこの足で向かう事はないか。
「それじゃあまた」
Sさんは帰っていった。
「おい黒子、まぁた首を突っ込むのか?
相変わらず物好きだねぇ・・・」
「あら、盗み聞きとは関心しないわね」
「盗み聞きって・・・たまたま聞こえただけだよ。
で・・・いくの?」
「んー・・・そうね。
近くまでなら行ってみようかな」
なんだよ?近くまでって・・・
って・・・この感じじゃ、今から行くつもりだな・・・こいつ。
「あのさ、前から気になってたんだけどさ・・・
黒子って霊感ないんだよな?」
「ええ・・・まぁ。
そういうことにしてるわ」
そういうことにしてるわ?だって?
ってことは実はあるってことなのか?
「それって・・・」
「てか、なんでついて来るんです?あなたこっちじゃないでしょう?
駅はアッチですよ」
う・・・確かにそれはそうなのだが、気になるだろうが!
・・・・・
・・・
とある暗がりの部屋・・・
「・・・まったく、その後もくっついてきて面倒だったのよね」
「ちょっと黒子ちゃん!夜道で男性と二人きり・・・!
なんかいい感じなのに、なんでそこで突き放すような事を!?」
「え?何が」
「え?何が?じゃなくてぇ!
今の流れだと二人でSさんの怪異目撃場所に行く流れじゃないですか」
「いや、邪魔だし」
「邪魔てッ!!」
「智子さん落ち着いて・・・一体どうしたの?
霊感があるから何でも出来るなんて全然ないから。
私は好奇心旺盛だから、色んなものに首を突っ込みたがるけど、
その反面、自分の身を第一優先に考えてるわ。
無理はしないし、自分以外の身の安全を保障できるほどの力はないわ」
「それってつまり黒子ちゃんが邪険にするのって、
一緒にいる人を巻き込まないためってこと?
はーーーん!やっぱ黒子ちゃんやっさすぃーねぇ!」
「智子さん落ち着いて・・・
コホン・・・もうこんな時間ね。
続きはまた今度」
「えーーーーっ!」
(智子さん・・・あなたは一体何者なのかしら・・・
私の好奇心と身の安全・・・今のところは両立できているけれど・・・)
「それでは、またね」
「ええ。またね黒子ちゃん」
次回に続く!
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